『インド仏教思想史』でも触れられていた、かの有名な「歴史は現在と過去のあいだの対話である。(History is an unending dialogue between the past and the present.)」という言葉が出てくる本だ。これが導き出された背景もよくわかったし、題名のとおり歴史とは何かについて考えさせられる本だ。
冒頭ものすごくわかりやすい例として出されていたのは、「みなさんが三〇分前にこの講義棟にいらした、歩いてか自転車でか車でか、といった事実は、たしかにカエサルがルビコン川を渡ったと同じく過去の事実です。しかし、将来の歴史家たちはきっと無視しますね[笑]」という文章である。歴史とはそもそも作為的に選択された事象の集合からなるのであって、その意味で現在と過去との相互作用であると言える。詳細は省くが、個人と社会にも相互作用があるのだから、もっというと今日の社会と過去の社会とのあいだの対話が歴史ということになる。
後半は科学哲学、特に物理学と歴史学との対比についても述べられていてとてもよかった。特にポパーの言論などが出てくるとは思っていなかったので、彼の議論を批判したりしながら歴史とは何かを探るアプローチは新鮮だった。もちろん両者ともにマルクス主義の研究はしていただろうから驚くには値しないのかもしれないが、それでも科学と歴史がこのような形で比較されうるということがわかったのは大きな収穫である。