『実力も運のうち』で紹介されている、 meritocracy の由来ともなった本。言葉の意味については、訳者のあとがきによくまとめられている。
この語は引き続き現在にいたるまでひろく用いられるようになっているが、意味するところは、教育制度として「英才教育制度、成績第一主義教育」、社会形態として「能力(実力)主義社会、効率主義社会、エリート社会」、政治形態として「エリート階級による支配、エリート政治」、主義・原理として「効率主義、能力主義、エリート支配原理」などである。『実力も運のうち』でも載せたが改めて書くと、この本は 2034 年 5 月に起きた抗議運動によって殺された筆者が、生前に残した小論という体をとっている。「今日にいたるまで半世紀以上の間、下層階級は、表面にはっきり表すことのできなかった反感を抱きつづけてきた」ことが原因であるこの事件の根底に流れているのが、メリトクラシーである。知能指数によるヒエラルキーが生んだ様々な格差が、ここで爆発するのだ。なお、この本が発表されたのは 1958 年である。
こちらも繰り返しになるが、現実世界ではこの爆発がイギリスの EU 脱退、ドナルド・トランプの大統領選挙勝利といった形で 2016 年に現れる。今から見ると信じがたいほどに的確な予言を、マイケル・ヤングはしていたことになる。しかも単にできごととしてではなく、教育制度の成り立ちから労働運動の衰退までを詳細に考察したうえで、この結末を導き出している。
原注と訳者注と復刊注とが別々に配置されていて非常に読みづらかったが、内容としては本当にすばらしい本だと思った。