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統計学のセンス

最終更新日: 2023 年 12 月 31 日

医療統計学シリーズの一冊目。専門家ではないので医学用語はほぼわからなかったが、統計学の実践という意味では領域を問わず役に立つ本だろう。それにしても臨床試験や疫学調査など、研究においては極めて多くの制約がある分野とはいえ、データの使い方ひとつで真逆の結果を生み出しうるというのは、頭で理解していたとしても結構衝撃的である。ひとの命に関わるケースだって少なくないだろう。

技術的な面でいうと、メタアナリシスに対する考え方が少し変わった。メタアナリシスとは過去に独立して実施された研究を統合して計算する統計的解析法であり、様々な研究手法のなかでも最も強いエビデンスのひとつとして認識されている。それゆえに信憑性が疑われることはあまりないように思われるが、そこには publication bias が存在する可能性がある。研究論文が採択される基準は「統計学的有意差が必要」であることが多いことから、それらだけを統合しようとすると明らかに有意な方向にバイアスがかかってしまうのである。

また、 Berkson’s bias も特に気をつけるべきポイントだと感じた。臨床試験における標本は基本的に自らの意思で来院してきた患者であり、研究結果を適用したい母集団から無作為に選ばれたものではない。これは医学研究に限らず十分に起こりうる状況なので、データに関わる人間は常に意識すべきだろう。

こういったバイアスに直面すると、カエサルの言葉がいつも思い出される。

人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。