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ゾミア

最終更新日: 2024 年 07 月 04 日

原題は『The Art of Not Being Governed: An Anarchist History of Upland Southeast Asia』である。邦題よりもこちらの方がずっとわかりやすいし、かっこいい。「ゾミア」とは「ベトナムの中央高原からインドの北東部にかけて広がり、東南アジア大陸部の五カ国(ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ビルマ)と中国の四省(雲南、貴州、広西、四川)を含む広大な丘陵地帯を指す新名称」であって、たしかにこの地が主な研究対象なのだけれども、この本のテーマは「Not Being Governed」の方にある。

実際、本文中にも「ゾミアや山塊の研究とは、山地民そのものの研究ではなく、国家を避けようとしたり、あるいは国家によって排除されてきた人々についてのグローバルな世界史の一部である」とある。ここで重要なのは彼らが「国家を避けようとした」点である。これは一種の戦略なのであり、彼らが未開であるといったイメージはあくまで国家(平地民)からの視点に過ぎない。

その戦略について説明したものが本書なのだ。だからこそ「The Art」というのをタイトルにつけたのだと思う。現実には 20 世紀以降こういった戦略を取ることが極めて難しくなってゆくわけだが、それでも「民族とはなにか」を考えるうえでこれは重要な指摘である。非常に学びの多い 1 冊だった。