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新訳 オセロー

最終更新日: 2025 年 01 月 06 日

さすがシェイクスピアと思わせるような作品だった。多くの言葉、そして登場人物たちの行動が多義的であって、様々な解釈が可能だ。僕にとって最も謎めいていたのはイアーゴーの存在である。悪者と言ってしまえばそれまでだが、なぜ彼がこのような企みをしたのか、最初腑に落ちなかったのだ。たとえば、この本書の訳者である河合祥一郎はあとがきでこのように解釈している。

<正直な軍人>と<悪党>という二つの仮面を持つこの男は、仮面の背後に、ひた隠しに隠してきた素顔を持っている。それは、「絶対的男性性を失った男」としての醜くも情けない顔だ。他人の目を欺く<正直な軍欺>という仮面の背後にあるのは、確かに<悪党>という眼光鋭い顔であるが、結局のところ素顔ではなく、自分の目を欺くために我知らず着けている仮面にすぎない。
だからこそ、「彼は妻の不忠に対して、発作的に、絶対的男性として振る舞う ― それが、エミーリア殺害である」わけだ。これにつながる話でもあるだろうが、僕はこの社会のヒエラルキーに対する憤りも彼には強くあったのではないかと思う。言うまでもなく、彼は冒頭自分が旗持ちであることの不満を述べているし、その後も下級軍人として相手にされていない様子がいくつも描かれている。

オセローにしたって、アフリカ系黒人としてキリスト教社会で高い地位につき、ヴェニスで一番の美女を妻にしながらも、白人文化に完全には溶け込めなかったという意識が、あの逆上の背景にはあるのだろう。見方によってはオセローも悪党なわけで、その意味ではふたりともこの社会の被害者であると言えなくもない。