この本の前半部分、すなわちエントロピー増大則による時間の不可逆性、ニュートン力学から一般相対性理論への拡張、そして量子論の相対論との融合に関する取り組みまでは至極一般的な内容なのですんなりと読むことができたが、後半部分は定説というより著者の主張を中心に展開されており、理解するのがなかなか難しかった。
「マクロな状態によって定められる時間と、量子の非可換性によって定められる時間は、同じ現象の別の側面なのだ」というのはたしかにあり得る話だなと感じた一方(コンヌの理論は非常に魅力的なのでぜひまた勉強してみたい)、自分たちがエントロピー増大則を満たす特殊な物理系に属しているのだという考え方はにわかには信じがたい。
とはいえ、最後に神経科学における時間の概念が語られていたのは非常におもしろかった。いわばカントが『純粋理性批判』で述べていたような、アプリオリな形式を持つ時間というものを自然科学で解釈しようとする試みであると言えるだろう。自分の場合はどうしても物理法則としての時間をまず第一に想起してしまうが、人間の内的状態としての時間を研究することはとてもよいアプローチのように思われる。