水木しげるの愛読書。エッカーマンがゲーテとの日々を記したもので、できごとが時系列で並べられている。上巻は 1823 年から 1827 年まで。自分が学生時代にヴァイマールに訪れたときには、バッハやゲーテが過ごしたのはこんな小さく静かな街だったのかなどと思ったものだが、まさにこの地での晩年のゲーテの姿が描かれている。特にシラーやバイロンの話がよく出てきていて、当時の欧州における文壇の様子も伝わってくる。作家に関して言えば、随筆や伝記の類は読んだことがあるが、ここまで日常生活が浮かび上がってくるようなものは初めてかもしれない。
会話の内容が広範囲に渡っているので、なかなかこの本を要約するのは難しい。ただ全体を通じて感じたのは、ゲーテが芸術と古典の普遍性について、ことあるごとに語っていることだ。今回はそれを示す部分の引用だけをこちらに残し、中巻を読み進めようと思う。
詩というものは、人類の共有財産であり、そして、詩はどんな国でも、いつの時代にも、幾百とない人間の中に生み出されるものだ。ある作家は、他人より多少うまく、他人よりほんの少しのあいだ抜きんでている、ただそれだけのことさ。(...)何か規範となるものが必要なときは、いつでも古代ギリシャ人のもとにさかのぼってみるべきなのだ。古代ギリシャ人の作品には、つねに美しい人間が描かれている。それ以外のものについては、みんなただ歴史的に吟味するだけで、その中のよいものは、できるかぎり吸収するようにすればいいのだ。