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ジョブ理論

最終更新日: 2024 年 01 月 23 日

この理論が間違っているとは思わないが、なにかレトリックに翻弄されているような感覚になった。本書の第 8 章(「ジョブから目を離さない」)でも紹介されていた、「人は刃の直径が 4 分の 1 インチのドリルがほしいのではない。 4 分の 1 インチの穴がほしいのだ。」(『マーケティングの革新』)、「企業が売っていると考えているものを、顧客が買っていることは稀である。」(『創造する経営者』)、という言葉を単に言い換えただけのような気もしている。きっと論文にまで当たらないとジョブ理論の独創性は見えてこないのだろう。

とはいえ、勉強になった部分もたくさんある。たとえば同 8 章に登場する「イノベーションのデータの 3 つの誤謬」などは、きっとほとんどのひとが自覚すらしていない。顧客を特徴づける受動的データではなく業務に関係した能動的データに誘惑されてしまったり(能動的データと受動的データの誤謬)、プロダクトの数だけを増やして成長を勢いづけようとしたり(見かけ上の成長の誤謬)、現状のモデルに合うようなデータを生成したり(確証データの誤謬)。こうした誤謬により、冒頭に出てきたような金言を僕らはいとも簡単に忘れ去ってしまう。

データに限らず、自らの働きを正当化しようとしてしまう自分をいかに客観視できるか。これが冷静な判断を下すために必要な姿勢であるように感じた。