陸と海
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閉じてゆく帝国と逆説の 21 世紀経済

最終更新日: 2023 年 12 月 31 日

内容としては『21 世紀の資本』のトマ・ピケティや『陸と海』のカール・シュミットといった学者たちの主張をまとめただけというような印象を受けなくもなかったが、なかでも長尾龍一の「帝国の『主権国家』への分裂は、世界秩序に責任をもつ政治主体の消去をもたらした、人類史上最大の誤りではないか」(『リヴァイアサン』)というウェストファリア体制への批判はなかなか斬新だと思った。たしかにそういう一面はあるのかもしれない。

その際に誕生した主権国家は国民国家へと姿を変えるわけだが、「平等が要請される国民国家システムと格差を生んで資本を増やす資本主義が矛盾を露呈することなく両立できるのは、『実物投資空間』が無限で経済が成長し続ける場合においてのみなのです」と水野は主張する。この無限性という前提が崩れた以上、近代システムはもはや立ち行かないので、定常状態のもとでいわば中世のような「閉じた帝国」により市場経済を再構築する必要があるという。

おもしろいのは、ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレの揃った日本は「恵まれた先行性」を持っていると著者が考えている点である。たしかに定常状態がポスト近代社会の前提であるならば、日本はその必要条件の多くを満たしていると言えそうだ。そのような時代の過渡期に自分たちがいるのだと捉えると、厭世的な気分になることもないのかなぁとも思えてくる。