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でも、これがアートなの?

最終更新日: 2023 年 12 月 29 日

儀式や文化、ジェンダーといった非常に幅広い観点からアートを考察しているが、本書で一貫して流れているのは哲学者ジョン・デューイによる「ある共同体の生活の表現である」という芸術の定義であると思う。著者はデューイの『経験としての芸術』での論考をことあるごとに言及している。たとえば、以下のような引用がある。

素材のもつ美的可能性の限界は実験的にのみ決定される。即ち芸術家がその素材から実地に作り出す作品によって決定される。この事実は、表現の媒介が主観的なものでも客観的なものでもなく、主観と客観とが新たな事物に統合してなった一個の経験だということのもう一つの証拠である。
デューイは 20 世紀のアメリカのプラグマティズムを代表する思想家として知られているが、この知見を芸術分析に応用している。経験に働きかけて芸術に相対するという考え方は、『現代アートとは何か』や『なぜ脳はアートがわかるのか』の主張と一致する。

著者のフリーランドは古代ギリシャ哲学が専門だったこともあって、哲学者の見解を時代とともに紹介しているのが個人的にはおもしろかった。プラトンやアリストテレスのみならず、カントやヒューム、ニーチェ、フーコーに至るまでを解説していて、デューイ以外の視点もあわせて知ることができる。とはいえ、記載されているアートも芸術理論も入門書としてかなり選別されている印象を受けたので、より深く理解するためには他の文献にもあたる必要がありそうだ。