最終章に「電気化学は,電子・物質・エネルギーのからみあいを探る学問で,さまざまな基礎科学と応用技術に関係している」とさらっと書いてあったが、そのおもしろさにまさに触れられる本だった。冒頭いきなり「半世紀の闇」として痛烈な教科書批判から入るが、進んでゆくにつれて段々とその意味がわかってくる。
たしかにこの分野はちゃんと理解しようとするとかなり複雑である。酸素発生という一見単純にみえる反応もそのメカニズムは 10 種類ほど提案されているというし、また電解電流ひとつとっても電気二重層の充電、電子授受律速の反応、拡散律速の反応というダイナミクスがある。いま僕は電池の研究をしているが、このあたりを一つ一つ紐解いてゆかないと得られた結果の意味を適切に判断できない。
その裏返しでもあるが、やはり近接領域とのつながりは非常に興味深い。統計力学が出てくる前の古い学問だろうと漠然と考えていた熱力学も反応の理解におおいに役立つし、生命現象だって神経伝達や光合成を要素還元してゆくと電気化学に行きつく。断片的だった知識がひとつにつながる心地よさがあった。