k.style

物理学への道程

最終更新日: 2024 年 02 月 15 日

1965 年にノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎の著作集。物理から教育まで、内容は多岐にわたるが、なんといっても「座談 量子力学の衝撃と体験」が抜群におもしろかった。終盤、同じく物理学者である山口嘉夫がこのように述べている。

ぼくにとっては、量子力学というのは、大学で習うカリキュラムの一環であって、必須科目であったということなんですね。だから、いままで先生方の問題にされてきた歴史的な順序や困難を、いちおう全部忘れてしまって、物理学としてすなおな順序に並べかえてみたいという気がするわけです。

この文章の前半部分に関しては、僕もまったく同じ思いで読んでいた。ただ自分にとってはこの「先生方の問題にされてきた歴史的な順序や困難」というのが非常に新鮮で、刺激的だった。量子力学の夜明けとも言える 1925 年前後に、ハイゼンベルクが、シュレディンガーが、ボーアが、そしてディラックが一体なにを考えていたのか。そして日本の物理学者たちがそれをどのように受容したのか。「大学で習うカリキュラム」が、突如人間物語として表現されたところに感動があった。当時を生きた人たちの言葉だから、より一層迫力がある。

大気を変える錬金術』もそうだっただが、 20 世紀前半の科学史にはドラマがたくさん詰まっていると改めて感じた。